今回はマンションで暮らす上で考えなければいけないことなどをお話していこうかと思います。
マンションは、ソフト面がいくら充実していても、肝心の建物や設備が劣化し、物理的に住めなくなっては意味がありませんし、老朽化したマンションの資産価値は下がるしかありません。マンションで長く快適に暮らすためにはどのような点を意識すれば良いでしょうか。
毎月徴収される修繕積立金について
マンションを購入すると管理組合へ必ず納める「管理費・修繕積立金等」というのがあります。このうち「管理費」は、「毎月または定期的に発生するコスト」であり、家計に例えると「生活費(衣食住の「衣食」部分)」といえます。その内訳としてイメージしやすいものには、エレベーター・消防設備等のメンテナンス費や管理員・清掃員など現場スタッフの派遣費用などがあります。これらの業務に加えて会計や出納・理事会サポート等を委託する管理会社への委託料、共用部分の電気料などが含まれ、「日常のマンションを維持するためのランニングコスト(フロー)」に該当します。
一方で「修繕積立金」は、「マンションを長く適切に維持するための原資として積み立てる貯蓄」といえます。その内訳は、将来において劣化する建物や諸設備の改修(補修や修繕など)や更新(新品への交換)、震災等における復旧工事など「計画的または緊急時に発生するコスト」を想定して「マンションを長期的に維持し、資産価値を守るためのストック」に該当します。
では、マンションを長く適切に維持するための原資である「修繕積立金」は、いったいいくら貯めれば良いのでしょうか。毎月納入する修繕積立金の適正金額はいくらなのでしょうか。
長期修繕計画について
その答えは「長期修繕計画」にあります。
長期修繕計画とは、マンションを長期的に見て(向こう30年間が一般的)、何年目に建物や設備のどの部分を改修(更新)し、おおよそいくら位の支出になるかを検討し、個々の組合員が月額いくらの修繕積立金を納めれば足りるのか、または何年後にいくら不足するのか(納入額の改定時期や改定額を検討すべきか)について把握するための計画です。
「長期修繕計画」というと「修繕工事をどう正確に企画するかの計画」と勘違いされるのですが、大切なことは「長期的にみて概ね修繕積立金が足りるかどうか」を掴むことです。
近年、新築時にマンションデベロッパーや管理会社が提供する長期修繕計画において、新築時に設定された修繕積立金の納入額では、建物や設備の劣化とともに増大する改修・更新工事費を捻出できないケースが増えてきました。
修繕積立金には2種類あり、新築販売時において購入者(=組合員)から徴収する「一時金」と、毎月納入する「積立金」とがあります。多くのマンションで一時金は数十万円程度と高額に、月額で徴収される積立金は数千円程度と低めに設定して販売されてきました。これは販売側の「マンション購入時における基金の徴収しやすさ(マンション本体価格に比べたら格段に低い額である)」と「マンション購入後のランニングコストを抑えめにした販売促進(住宅ローンの他にかかる固定費を低く設定したい)」という事情があります。
これにより、当初の長期修繕計画と実際のキャッシュフローとが見合わなくなるため、計画的に納入額を引き上げる前提でのプランとなっていることが多くありました。
そこで近年では、30年間、修繕積立金を定額にするなど、大手デベロッパーを中心に新しい徴収方法を採用するマンションも少しずつ増えています。
このように長期修繕計画は、「未来のマンションにおける修繕積立金の過不足」を早い段階で知ることができる大切な情報であり、早いうちから対策を検討する大きな手がかりとなる資料なのでマンションで暮らす方は面倒がらずにしっかりと把握した方がいいでしょう。
大規模修繕工事の中身や基準について
長期修繕計画には、修繕積立金の算定根拠となる「建物や設備の改修や更新の実施想定時期や想定支出」が網羅されています。この中でも最も高い支出となるのは「大規模修繕工事」である外装工事です。
マンションが長期間にわたって適切な状態を維持していくためには、建物(多くは鉄筋コンクリート)の強度を維持し、雨漏りなどの漏水事故を防ぎ、外観(美観)を回復させる必要があります。大規模修繕工事で機能や美観を回復させるのには、最も多額のコストがかかります。
この大規模修繕工事、国土交通省が例示するガイドラインには「概ね12年に1回程度」の工事を推奨しています。デベロッパーや管理会社が提案する長期修繕計画も概ねこのガイドラインに従って、12年ごとに1回、数千万円から規模によっては億単位の工事費を計画しています。
その他、エレベーターや機械式駐車場・給水や排水管・ポンプ・消防/防災等の諸設備についても、一定年ごとに改修や更新の時期と工事費を計画する必要があります。
ただし、建物や設備の劣化速度はマンションによって誤差がありますし、工事の方法や材料の選定によってはローコスト・長寿命化などの選択が可能です。
また、実際の想定工事費については、実際の発注時において複数の施工業者から見積もりを取り、比較するなどして、長期修繕計画に盛り込まれている工事の内容を想定に応じてアップデートし、修繕積立金の必要額を定期的にチェックすることが重要です。
最後に
マンションは昭和の時代に大量生産され、平成の時代を経てその材料や工法は着実に進化し、法令改正も手伝って耐震化が進み、その寿命は100年以上といわれています。しかし、実際にマンションを100年以上もたせるためには、建物や設備を定期的にメンテナンスし適切な時期に改修・更新を行い、良い状態を維持することが大前提です。
そのためには、建物や諸設備の改修・更新工事を適正な金額で発注し、長期修繕計画を定期的にアップデートし、それに基づいて組合員が修繕積立金を無理なく納入できるようにコントロールし続けることが重要です。
「マンション100年時代」それは、管理組合の継続的な取り組みの先にあるものなのです。